ここでは、安曇野地球宿プロジェクトへの僕の思いを書いてみることにします。
(この文章は2003年10月頃に書いたもので、文章中ではまだ東京都町田在住となっていますが、2004年4月より信州安曇野での暮らしがスタートしています。)
1、夢・理想編
今、具体的に計画に移そうと考えていることがあります。
それは増田ファミリーで長野県安曇野地域に移り住み、そこで宿をやるということです。
やりたい理由・願っていることは大きく3つあります。
●1つ目は人を受け入れるということを、もっとやっていきたいということ。
現在、増田ファミリーが暮らす東京町田のアパートには、仲間たちが頻繁に遊びに来ては泊まっていってくれます。昨年、同じ町田に住む友人の吉本が、居酒屋「樹ごころ屋」を始めたこともあり、お店で飲んだ後は、我が家に泊まっていくというケースもよくあるし、遠方からの友も「東京に行った時は、望三郎のところに泊まらせてもらおう」と気軽に訪ねてくれます。また2年前のことになりますが、サッカーW杯の時は、来日する海外サポーターに、インターネットで「ホームステイをしないか?」と呼びかけたところ、メキシコ人夫妻と知り合いになり、日本に滞在した10日間、我が家に泊まってもらいました。
2DKの狭いアパートなので快適とは言えませんが、それでも仲間が我が家に来て、テーブルを囲んでかみさんの手料理を食べ、語らい、心を通い合わせる時間はとても楽しいものです。娘の風は、いろんな人にその都度可愛がってもらい、人見知りをあまりしません。たくさんの人が出入りする我が家庭は、娘の成長にどのような影響を与えているのでしょうか。僕ら夫妻がそうであるように、娘の風もまた、「ひと」にたいして安心感をもった人間に育てばいいなあと思っています。
このように人を受け入れていく、ということは増田ファミリーの暮らしにとっては日常的なことであり、喜びになっています。この喜びを将来にわたって、もっと味わいたくて、またこれまでの友人知人だけでなく、まだ未知の人たちとの新たな出会いが生まれてくることも期待して、宿をやってみようと思いました。
宿のスタイルは大きな旅館や華やかなペンションのようなものではなく、来てくれたゲストの一人ひとりに誠実に対応ができる小規模で、また自分たちの安曇野での暮らしをベースにして、その延長で受入れるホームステイ感覚の宿にしていきたいと考えています。
宿業はサービス業として括られますが、世のサービス業のようにサービスをお金で売り買いし、オーナーとゲストとがサービスの権利者と義務者の対峙した関係になるのではなく、家族の一員のような輪(和)の関係になり、ゆっくりとくつろいで過ごしてもらう心の触れ合いができる宿を描いています。
●2つ目は松村ファミリーとおぐらやま農場の存在です。
宿を行う場所は信州(長野県)安曇野地域に決めています。
安曇野には3年前より、りんごと桃の果樹栽培を行っている「おぐらやま農場」の松村ファミリーがいます。
増田ファミリーは東京町田に暮らして3年が経ちましたが、その間に彼の農場に何度となく行っていました。ある時は援農であったり、ある時は近所の子供を連れての夏のキャンプだったりしました。松村ファミリーは農作業で忙しい中、いつも快く受け入れてくれて、その都度楽しい時間を過ごすことができました。
松村君とやりとりを重ねていくなかで、彼の農業や家族への思いを聞かせてもらってきました。彼とは20代の始めに出会い、夢や理想を語り、共に過ごしてきましたが、当時の固定した理想から解放され、今では家庭の父として、等身大で生きていこうとする人生を歩んでいるお互いに共感し合えるものがあり、そんな彼を応援したくなり、彼の育てた果物を東京で販売したりしました。東京から3時間ちょっとでいける彼の農場は僕らにとってとても魅力的な空間になっていきました。
松村家を訪れる時、人数が多い場合は松村家だけでは宿泊できないために、松村君が世話になっている先輩農家の離れの家屋を借り、いくらかのお金を支払って宿泊させてもらっていました。毎回気軽に泊めさせてもらってきましたが、その方の住まいの敷地の中にあり、気兼ねも無いわけではありませんでした。
そこで仲間達がおぐらやま農場にやってきた時、に気軽に泊まれるゲストハウスを建てたいなあと思うようになりました。またどうせゲストハウスを建てるなら、仲間内のためだけでなく、一般の旅行者たちも泊まれる宿にもして、幅広く人と交流の出来る拠点にもしたいと思いました。秋の収穫時など農繁期の作業などの体験を通じて、美味しく安全な食べ物を届けたいという生産者(松村君)と、それを食べている都会の生活者とがお互いを理解し合い、支え合う共生の関係を考え築いていくことができる(今の言葉で言えばグリーンツーリズム)そんな場所をつくっていけないかと思いました。
松村ファミリーとおぐらやま農場の協力を得ながら、農場体験やりんご収穫などのグリーンツーリズムを体験できる農家民宿(ファームイン)をやってみたいと思うようになりました。
宿の役割としては、もちろん農場のゲストハウスとしてだけでなく、乗鞍や常念岳、ちょっと足を伸ばせば上高地など北アルプスの山々があるので、山登りの好きな方にもベースキャンプとしても使ってもらいたいです。豊かな自然環境とそのなかに点在するいくつもの美術館などもあるので、信州安曇野で、ゆっくり過ごすにはなかなかいい場所だと思います。
●3つ目、これが僕の一番願っていることでもあります。それは自分の願うコミニュティの創造です。
単に農業体験型の宿をやるだけなら、兄が北海道で牧場をやっていて、「宿をするなら場所は提供するよ」と言ってくれたので、そちらの方がやりやすかったかもしれません。しかし、僕は単に宿だけをやりたいのではありません。農場を始めとして、様々な人や活動、地域と繋がり合うことで展開する協働と共生のコミニュティを創り出したい、ということがこのプロジェクトで最も願っていることです。コミニュティの創造を見据えた上で、その可能性を最も感じたところが安曇野でした。
農場の松村君自身が、作り手と食べ手とが顔の見える関係となり、安心して食べられる食べ物の生産を担っていこうと、既に東京や関西などのたくさんの人たちと繋がり始めていますし、人を受け入れる場として農場の役割を考えている人でもあります。
まず増田ファミリーと松村ファミリー、宿と農場。お互いの現場で自立に努力しながら、応援協力し合おうと思います。また僕らが安曇野の地域に根ざしていくなかで知り合える地元の方々にも関わってもらいながら、単なる個人で運営する宿ではなく、そこに暮らす人たちの心温かな繋がりによって、楽しい時間を提供できる宿にしていきたいと思っています。
逆に言えば、宿業をやっていくことで、そのような人の繋がり=コミニュティを創り出していけたらと思っています。
今はインターネットを通じて、情報の発信が簡単にできるようになりました。安曇野の地で展開させていく幸せの風を日本中、世界中に発信していきたいと思います。また首都圏や名古屋にも3時間で行けるので物理的な距離もさほど遠くありません。安曇野で田舎暮らしをしながら、松村君と一緒に果物の販売に街へ出かけたり、また秋には年配者向けにりんご狩り&温泉ツアーの車を街から安曇野へ出したり(ドライバーはもちろん僕です)と、東へ西へ動き回ろうと思います。
こんなふうにして、農村と都市との間を行き来し、人、物、情報、そして何より心の交流を行い、そこから自分もみんなも楽しく嬉しく幸せになっていく、そんな世界の実現に向けて、新しいコラボレーション(共働)を展開させていく、そんな拠点にもなる宿を創りたいと考えています。
これが僕の願いであり、やってみたいという構想です。
さてここまでが夢と構想。
ここからが具体編です。